2021年10月26日

長浜のお庭文化を後世に

市民有志が書籍化へCFで資金募る

 長浜市内に残る個人宅の庭や名勝庭園などを調査しているグループ「ながはまのお庭プロジェクト」(山崎弘子代表)はこれまで発行した小冊子5冊を再編集し新たにインタビューなどを盛り込んだ書籍を販売することになり、クラウドファンディング(CF)で制作費用180万円を募っている。

 長浜市は茶人で造園家の小堀遠州(1579〜1647年)の出身地。遠州の手掛けた庭は市内にはないものの、遠州の作庭文化を受け継いだ辻宗範、勝元宗益(鈍穴)、布施宇吉(植吉)らが活躍した。長浜商人は豊かな経済力を背景に庭師を呼び寄せて競って庭を造らせ、今もその多くが当時の姿を変えず受け継がれている。

 2009年に京都大学の学生らが市街地で庭の調査を始めたのをきっかけに個人宅に古い庭が多く残ることが明らかになり、さらに調査を進めるため、大学教授や庭師、市民活動家、市職員ら有志でプロジェクトを結成。中心市街地に残る個人宅の庭の調査を進め、市町合併後は市全域を見て回り、約10年かけて約1000カ所を調べた。このうち、江戸、明治、大正時代に造られた庭を小冊子「ながはまのお庭」にまとめあげ、これまで5巻を発行した。また、庭を巡るツアーや講演会の開催などを通して、長浜に残る庭文化の発信、保存に取り組んできた。

 新しく書籍化を計画しているのは小冊子を再編集したもので、約100カ所の庭を紹介したうえで、所有者へのインタビュー、庭師による座談会のようすも収録する。タイトルは「市中の山居〜ながはまのお庭〜」(仮題)で、B5判98ページ。

 古い庭は今も隠れるように大切に受け継がれてきたものの、現代の住宅に似合わないとして取り壊されて駐車場になるなど少しずつ失われつつあり、同プロジェクトは「今、声を上げないと失われてしまう」と危機感を抱く。山崎代表は「埋もれていた長浜のお庭文化を調査・発見する機会をいただいた。住宅事情が変わり庭の存続が危ぶまれるが、世界に誇れる日本の庭文化が守られるきっかけとなれば」と話している。

 なお、CFでは寄付金額に応じて書籍や絵はがき、米、地酒などの返礼品を贈る。詳細はキャンプファイヤー(https://bit.ly/3mojy2m)へ。

2021年10月22日

ガラス作家97人 こだわり光る

黒壁主催  慶雲館で公募酒器展

 長浜市街地の黒壁スクエアや北国街道、慶雲館などで23日から11月7日まで黒壁主催の「ナガハマグラスフェス2021」が開かれる。

 市街地に点在する歴史的建造物や古民家、文化施設を会場として、全国の多彩なガラス文化を発信する催し。全国のガラス作家から酒器を募る「北近江サケグラス公募展」(慶雲館)、小中学生のデザイン画を実物グラスにした「みんなのグラスデザイン画コンペティション」(元浜町、旧長浜アートセンター)、ガラス工芸の巨匠の作品を並べる「伊藤けんじガラス工芸展」(慶雲館新館)などがある。

 慶雲館では22日午前、北近江サケグラス公募展の準備が完了し、北海道から沖縄までの作家97人の作品が並んだ。吹きガラス、切子、サンドブラスト、ベネチア伝統のレースガラスなど、作家それぞれが得意の技法を駆使して制作している。桜の花などを緻密に表現した作品「一陽来復〜冬から春へ」や、「愉しく呑みたいね」とのメッセージを添えたユニークな作品「イカ徳利とタコ盃」など、作品のタイトルからも作家のこだわりや思いが伝わる。なお、公募展では入館者やインターネットでの人気投票で入賞作品を決める。黒壁の広報担当・佐藤泉さんは「慶雲館の歴史あるたたずまいの中で、全国の作り手による、おうち時間を楽しくしてくれるガラスの酒器をご鑑賞ください」と来場を呼びかけている。

 慶雲館の入館料は大人300円、小中学生150円。午前9時半から午後4時半まで。

 

 

2021年10月20日

車いすバスケ清水選手 パラ報告

「悔しくて、楽しい大会」

 東京パラリンピックの車いすバスケットボール競技に出場した長浜市出身の清水千浪選手が19日、藤井勇治市長を表敬訪問し、大会結果を報告した。

 清水選手は浅井中、虎姫高出身。愛媛大学時代にサッカーを始め、なでしこリーグでも活躍していた。引退後、病気で下肢に障害が残り、2015年から車いすバスケに打ち込んでいる。今夏、日本代表としてパラリンピックに初出場。全6試合に出て計8ポイントを得点している。日本代表は予選を2勝2敗で突破し、準々決勝、5位決定戦で敗れ、出場10カ国中6位となった。

 表敬訪問で清水選手は「とてつもなく悔しくて、楽しい大会でした」と笑顔で振り返った。目標としていたメダルには届かなかったものの、車いすバスケ女子日本代表としては13年ぶりのパラリンピック出場で、「6位ということは、満足いく結果だったと思う」と語った。コロナ禍での開催について「無事に開催されたことに感謝したい」とした。

 清水選手はユニフォームや競技に使用する車いすを紹介し、素早く回転できるように車輪の角度が「ハ」の字になっていることを説明していた。

 2024年のパリ大会でのメダル獲得が今後の目標といい、「チームの課題は経験値が足りないこと。上位のチームは応用力があるが日本にはない。男子と試合して経験を深めたい」とした。自身もシュート力の向上に励むとした。

 また、2025年に滋賀で開かれる国民スポーツ大会・全国障害者スポーツ大会に向け、湖北地域で車いすバスケの大会を開いて競技を広めたいとした。

 藤井市長は「清水選手の活躍でパラリンピックを身近に感じた。次のステージを目指して活躍してください」と声をかけていた。

2021年10月12日

新しい江北図書館目指して

県内最古の私立図書館 理事一新  有志集い次世代へ継承

 開館から114年にわたって地域住民によって運営されてきた県内の最古の私立図書館「江北(こほく)図書館」(木之本町木之本)。資金難や建物の老朽化、利用者の減少など課題が山積する中、図書館を運営する公益財団法人江北図書館はこのほど理事を一新し、新しく策定した「基本方針」に基づき図書館再生に動き出した。

 同図書館は旧余呉村出身の弁護士・杉野文彌氏(1865〜1937年)が「郷土の青少年に読書に親しむ機会を」と1902年(明治35)、私財を投じて杉野文庫として設立したのが前身。これを継承して07年に財団法人が設立され、翌年に江北図書館が開館した。75年からは旧伊香郡農会の建物を図書館としている。

 開館から100年以上を経過する中、各地に公立図書館が次々と誕生し、利用者が減少。支援を受けていた伊香郡町村会が市町合併を機に解散して以降は資金難にも見舞われ「今後の運営は資金的に見通しが立たないのが現状」としている。また、築84年の2階建ての建物は雨漏りするなど老朽化が深刻な状態となっている。

 そんな苦境にあえぐ地域の私立図書館を再生しようと地域住民有志が集い、今年6月に理事を一新した。地域活動に熱心に取り組む30代、40代の若手を含め9人体制で発足した理事は、これまでより平均年齢が約20歳若返ったという。

 理事長には岩根卓弘氏(47)=キクヤ社長=が就任し、副理事長として平井和子さん(読み聞かせグループ木のポン代表)、太田浩司氏(長浜市学芸専門監)が支える。館長には久保寺容子(ひろこ)さん(あいたくて書房店主)が就き、これまで40年にわたって理事長を務めてきた冨田光彦(てるひこ)氏(滋賀大名誉教授)は名誉館長に。

 新たに策定した基本方針は、杉野氏が抱いた青少年育成と地域文化向上の思いを大切にし、地域に貢献する図書館を目指す、としている。具体的には▽子どもの本を厳選した開架▽館内での読み聞かせ会やワークショップの開催▽歴史資料の調査・研究▽レトロな建物の維持と活用▽前庭を活用したイベントの開催▽地域の情報収集と発信の拠点づくり▽「図書館だより」の発刊—などを掲げている

 岩根理事長は「長い歴史を持つ江北図書館がこれから先も地域に貢献し地域住民から必要とされるよう、次世代にしっかりと受け継いでいく」と決意を語り、「図書館のイメージを一新するため小さな事業を積み重ねていきたい」としている。

 久保寺館長は「建物も蔵書も古いが、それが魅力でもある。これを発信して多くの方に足を運んで興味を持ってもらい、江北図書館が大好きと言ってもらえる人を増やしたい」と話している。

 なお、江北図書館の開館時間は火〜土曜が午前10時から午後4時まで、第2、4、5日曜が午前10時から午後2時まで。第1、3日曜と祝日は休館。

2021年10月5日

どうなる?お産 ㉒-㉓

㉒地域医療[3] 医師の働き方改革 期待もある

 2024年に始まる医師の働き方改革。病院が減ってしまわないのか、分娩費が値上がりしないのか…、気がかりは多い。

 ただ、「医師側としては、期待もある」と、滋賀医科大医学部付属病院の村上節教授は言う。

 まずは女性医師が働きやすくなる。産婦人科医は女性が多い。県内の病院勤務医の約48%は女性で、うち7割弱が20〜30歳代だ。

 一般的に、医師は24歳で医学部を卒業後、研修医として2年かけて診療科全体を回る。その後、専攻医として約3年間、専攻した科で研修を積む。

 さらに、産婦人科のキャリアでは、基本となる領域以外にも、それに基づく「サブスペシャルティー領域」(周産期、婦人科腫瘍、生殖医療、内視鏡技術など)を習得するのに約3年かかる。その時点で30歳代半ば。中堅として働き盛りだが、女性医師はとうに出産適齢期を迎えている。子どもを望むなら現場を離れざるを得ない。

 その結果、科の構成が50、40代の次は若い研修医という事態が頻発し、上級医師に過重負担がかかる構図が生まれがちだという。

 村上教授は「集約化で1施設当たりの医師が増えれば、産休・育休から復帰した女性医師に日中を任せ、上級医師は日中休むなど、柔軟な体制が組めるかもしれない」と話す。

 さらに、産婦人科医師の志望者数の増加が期待できる。産婦人科は、当直回数や勤務時間、訴訟リスクが他科を上回る「3K」と呼ばれてきた。過去25年、医師総数は増えているのに、産婦人科医は微減となっている。

 実際、滋賀医大でも、4年生の時には産婦人科に興味を持っていても、翌年からの臨床実習と卒業後2年間の初期研修で各科を回ると、他科を選ぶ者は少なくない。

 「忙しさを目の当たりにするから。だが医学生や初期研修医にゆとりのある働き方を見せることができれば、志望者は増える」と村上教授は信じている。

 なぜなら、「医療界でこんなに幸せなことが起こるのは産婦人科だけ」だからという。

 教授は元々、精神科医志望だった。しかし、入学した東北大の臨床実習で病棟を回る内に、他科が「残念です」ばかりなのに、産婦人科だけが「おめでとう」と言えることに感動し、産婦人科医になったそうだ。

 「今は過渡期。みんな将来がわからないでいる。何年もかかる事業だが、未来は悪くないはずだ」

 一市民として、働き方改革が地域医療にもたらす課題は注視したい。一方で、医師の労働環境の整備が期待通りに進むよう、理解も深めていきたい。

(9月27日掲載)

㉓地域医療[4] 楠井隆・長浜赤十字病院長に聞く1

 市立長浜病院が分娩を中止した背景に、病院の集約化を急ぐ国策があった。

 厚労省は2020年、病院再編を重点支援する全国5区域の一つに、湖北区域(長浜、米原両市)の4病院(長浜赤十字=日赤、市立長浜、市立湖北、セフィロト)を選んだ。

 再編統合の核となる長浜日赤と市立長浜は、救命救急や緊急性の高い「高度急性期・急性期」の病院だ。どんな再編統合が地域医療のためなのか。長浜日赤の楠井隆院長に話を聞いた。

 「2病院の機能を再配分し、急性期も回復期も地域で完結して支える一つの病院となることが望ましい」

 そう話す楠井院長は、理由を次のように説明した。

 「医師不足と将来の人口減を考えると、似た病院が二つあっても効率が悪い。一方で、長浜に回復期の患者の受け入れ先が少なく、県南の施設に転院をお願いしている状況がある」

 院長がモデルとみるのは、兵庫県立病院だった尼崎病院(約500床)と塚口病院(約400床)の統合だ。15年に「県立尼崎総合医療センター」(約730床)に再編された。

 尼崎病院は地域の中核病院として、がん手術など高度専門医療を提供する一方で、周産期医療は実施していなかった。

 塚口病院は、地域周産期母子医療センターの指定を受け、周産期医療と小児(救急)医療を担っていた。しかし脳神経外科医、心臓血管外科医が不在で、合併症妊婦(脳血管障害、急性心疾患など)への対応ができなかった。また両病院とも老朽化や敷地不足に直面していた。

 確かに長浜の2病院と状況は似ている。市立長浜(約600床)は厚労省から「地域がん診療連携拠点病院」の指定を受け、長浜日赤(約500床)は「地域周産期母子医療センター」の指定を受ける。

 両病院とも建設から築20年以上の本館の老朽化、高度医療機器のメンテナンスが問題となっている。長浜日赤は、現状の敷地では改修・増築に対応できない。

 楠井院長は、病院再編への期待は多いという。

 まず、医師が1病院に集まれば診療機能の充実が図れる。そこに患者が集まれば、症例数が増え治療の多様性に厚みができる。

 指導医は研修医や専攻医に多様な指導ができ、若手が習得できる手技が増える。技術的な向上が見込めるとなれば、医師にとってはそこで働く大きな誘因となる。技術レベル向上が医師確保を促す、という好循環を目指したいという。

 楠井院長は「一つになれば、大学病院に負けない高度な機能を持てる。話を前に進めるため、行政の支援が必要だ」と力を込めた。

 

(10月5日掲載)

堀江昌史

2021年10月4日

「旅する蝶」アサギマダラ

西浅井のペンションに大挙、産卵も

 西浅井町大浦のログハウスペンション「ラダー」に、「旅する蝶」アサギマダラが大挙。乱舞する光景が見られ、話題となっている。

 アサギマダラは、浅葱(あさぎ)色の大きな羽が特徴。秋に温暖な地を求め、信州方面から九州などへと、日本列島を縦断するように南下し、その距離は1000㌔を超えることも。人気アニメ「鬼滅の刃」にも登場し、キャラクターのモチーフになった、とファンの間で話題となっており、近年、脚光を浴びている。

 ラダーには開設当初の22年前から数匹が飛来していた。昨年、オーナーの田中伸征さん(52)は蝶が飛び交う「バタフライガーデン」を作ろうと、アサギマダラが蜜を吸うため集まるフジバカマを10株ほど植えたところ、多い日で10匹程度が集まるように。

 今年、フジバカマの数を3倍増やし、産卵場所として好むキジョラン(鬼女蘭)を植えたところ、9月上旬から次々と飛来するようになり、10月3日には過去最多の60羽が集結。初の産卵も確認できた。

 アサギマダラは各地を移動しながら、昼間、フジバカマやヒヨドリバナ、アザミなどキク科の植物に集まり、夜は涼しい山中で過ごす。天候や気温に敏感で環境バロメーターを示すとされ、近年、地球温暖化の影響で北上傾向にあるという。

 この蝶の生態は明らかにされていない部分が多く、各地で固体識別番号を羽に入れるマーキング調査も行われている。田中さんは「ラダーの目前には琵琶湖があり、周りを山に囲まれているから、棲みやすいのでは。来年はもっと増えるだろう」と推測している。見ごろは今週いっぱい。