宗永堂の杉中さん、ロンドンで体験講座を指導
欠けた器を漆で接着して金で装飾する日本の伝統技術「金継(きんつ)ぎ」。壊れたもの直して大切にする技法はそのデザイン性も評価され、海外では「KINTSUGI」として注目を集めている。国友町の仏壇仏具店「宗永堂」の店主・杉中伸安さん(58)のもとにも海外から金継ぎの依頼が舞い込み、今月上旬にはロンドンに招かれて体験講座(ワークショップ)の講師を務めた。
杉中さんは独自の漆ブランド「NUUL(ヌール)」を立ち上げで独創性のある漆器を送り出している。その手仕事に魅了された栗東市の中小企業診断士・磯野研さんの提案で、昨年9月、海外に金継ぎ作品を紹介、販売するネットサイト「The Kintsugi Labo Japan」を一緒に立ち上げた。サイト内の英文は磯野さんの妻の三知恵さんが担当した。
サイトでは金継ぎの技法について紹介したうえ、作品を従来の古典的な「アンティーク」、デザイン性を重視した「ユニーク」、漆器にも応用した独創的な「ネオ」の3種に分類して販売。これまでに欧米や中東など世界各国から注文が入り、特に抹茶用の茶碗が人気という。また、金継ぎによる修繕の依頼も入り、イタリアからは細かく欠けた皿が届いている。
体験講座の依頼はロンドン市内の複合施設「パンテクニコン」から舞い込んだ。日本と北欧の文化などを紹介する施設で、コンセプトストア、カフェ、レストラン、バーなどが入る。「海外で金継ぎがブームになっていることは知っていたが、まさか自分が行くことになるとは。海外は30年ぶりでしたので、パスポートを慌てて作りました」と杉中さん。
現地では10月1、2日の2日間で計5回の講座を行い、25人程を指導した。講座時間は1回当たり90分に制限されていたことから、割れた器を漆で接着する金継ぎの体験には短く、代わって金で装飾を施す蒔絵を体験してもらった。参加者は杉中さんの手ほどきで速乾性のある漆を使ってコースターとジュエリーボウルに模様を描き、金粉をまぶしてオリジナルの蒔絵作品を完成させた。三知恵さんが通訳を担当した。杉中さんは「皆さん、興味を持ってやってくれていた。独創性のあるデザインにする女性もいて、芸術の素地の違いを感じた」と振り返る。
ロンドン滞在中には大英博物館やナショナルギャラリー(国立美術館)も訪れた。「驚いたのはこれだけ立派な施設なのに入場料が無料だったこと。文化に対する意識の違いを感じました」と刺激を受けた。
仏壇需要の低迷で、漆文化の継承が課題となる中、海外で注目を集める日本の漆工芸。杉中さんは「海外でのワークショップはハードルが高いが、いずれは1カ月ほど滞在して、本物の漆を使ってじっくりと金継ぎを教えたい」と新たな挑戦を思案している。