⑤施行が迫る働き方改革 県内の医師数は足りるのか?
2024年に施行が迫る医師の働き方改革。地域医療はどう変わるのか。「地域医療構想」を考える県医療政策課で話を聞いた。
県は「二次医療圏」を、保健所の管轄地域ごとに7ブロック(大津、湖南、甲賀、東近江、湖東、湖北、湖西)に設定している。最も充実するのは大津、湖南のブロックだ。ここに県内の病院57施設、一般診療所1089施設のうち、約5割が集中する(18年10月)。県内の医師は3386人で、うち医療機関の勤務医は3214人。県民10万人当たり239・8人(全国32位)で、全国平均(258・8人)より少ない。大津ブロック以外は、全国平均を下回っている。
一方、国の「医師偏在指標」で、滋賀は医師「多数」県とされ、ブロック別でも「少数」はない。比較的若い医師が多いためだ。
しかし、県の担当者は「滋賀医科大の臨床系教員、大学院生501人が含まれる。24年に全国で1万人不足するとされ、県内でも医師は不十分」と言う。
県内の産婦人科医に注目すると、15〜49歳の女性10万人あたりの医師数は39・3人で、全国平均の44・6人を下回る。
県は、周産期(妊娠22週〜出生後7日未満)医療については、すでに医療資源の集約を進め、7ブロックをさらに4ブロック(大津湖西、湖南甲賀、東近江、湖東湖北)とする体制をとっている。
それでも、産婦人科医の偏在指標では全国32位の「少数」県。東近江、湖東湖北ブロックは全国的にも特に「少数」地域とされる。
産婦人科医には女性が多く、病院勤務医の47・9%を占める。その66・7%が20、30歳代だ。産休・育休、復帰後の時短勤務の統一した仕組みは未整備で、医療機関ごとに診療体制を維持するために、同僚が過重労働を強いられることも問題になっているという。
日本産科婦人科学会によれば、女性医師の占める割合は08年まで全体の約3割だったが、20年で5割弱にまで増加した。その半数近くは妊娠、育児中という。学会は「彼女たちが働きやすい職場づくりが、産婦人科医療を維持する重要な要素」と宣言している。
加えて、県内でのの約6割を占める診療所の医師は、半数以上が60歳超と高齢化。分娩を扱う診療所は27(12年)→17(現在)、病院は14(12年)→10(現在)と減る一方だ。
分娩を休止した施設に行く予定だった妊婦が駆け込む先の医療体制が心配になってきた。
(4月21日掲載)
⑥地域の医療体制は守れるのか 現場で働く医師の環境も心配
県内で分娩を扱う施設は、2012年に比べ診療所27→17、病院14→10に減っている。診療所の医師の高齢化や、医師不足による医療資源の集約化が原因という。分娩を休止した施設に行く予定だった妊婦が駆け込む先の医療体制は大丈夫なんだろうか。
例えば、湖東湖北ブロック(彦根・多賀・甲良・豊郷・愛荘・長浜・米原)。
県の関係者によると、19年、ブロック内では計2425件の分娩があった。
このうち、3月までにお産ができなくなった施設(彦根市立病院、佐藤クリニック=長浜市、市立長浜病院)での分娩は658件。今後、これを残る4施設(彦根市の神野レディスクリニック、同アリス、長浜市の長浜赤十字病院と橋場レディスクリニック)で受け入れることになる。
19年、この4施設での分娩は1767件。県の調査に対し、21年は2180件の受け入れが可能と答えている。
2019年と同じペースで、女性が妊娠すれば、お産ができなくなった施設からあふれる妊婦658人のうち、245人の受け入れ先がない、という計算になる。
県の医療関係者は「今年はコロナ禍で妊婦が少ないのでなんとか大丈夫だろう」。しかし、綱渡りの状況は今後も続く。
現場で働く医師の環境も心配だ。働き方改革を勉強して、現場の医師はこれまでもギリギリで働いてきてくれてきたことが十分にわかった。それなのに、彼らにさらに過重な負担が寄せられるのではないか。
例えば、長浜赤十字病院の産科・婦人科の医師は6人(21年3月末)。医師の構成は、男性2人(1994年卒、96年卒)、女性4人(2016年卒2人、17年卒2人)。女性4人は初期臨床研修を終え、専門的研修プログラムを実践中だ。
元公立病院事務部長の幸地東さんは「若く経験が少ない医師が4人なので、上級の医師の負担は大きいだろう。夜間当直がこの体制では、現場はかなりきつい。あと2〜4人は確保したいところだ」という。
長浜病院から引き上げた産婦人科医を、長浜赤十字病院に回してもらえないのか。長浜保健所の担当者は「長浜病院は滋賀医科大医局からの派遣。赤十字は京都大から。派遣元が異なり、調整がなかなかうまくはいかない。県は京大に増員を依頼しているところ」と教えてくれた。
医局同士の連携も簡単ではないらしい。保健所の担当者は「産婦人科医の不足は全国的な問題。滋賀医科大でも、医師が余っているわけではない。引き上げたら、他に補填したい場所があるのだろう」。
堀江昌史
(4月28日掲載)