どうなる?お産 ⑩-⑪

⑩未来にも産む場所の多様な選択肢を

 「『よいお産』を語るなら、助産師たちのお産も取材してほしい」

 読者から、そんな声が寄せられた。

 そこで訪ねたのは、4月に開所した東近江市の「共同助産所お産子の家」。

 20〜30年以上のキャリアを持つ助産師6人が始めた。滋賀医大を連携医療機関に、院内出産、助産師が出張する自宅出産も請け負う。

 管理者は、斉藤智孝さん。1千人以上の赤ちゃんの誕生に立ち会ってきた。共同助産所の設立に当たって、27年間続けた「さいとう助産院」を閉じたという。

 その覚悟を、こう語る。

 「助産師免許を持っていても、医療介入なしにを介助できる助産師は絶滅危惧種。後輩養成が必要だと考えた」

 診療所医師の高齢化や病院の集約化により、産む場所が減り続けている。その危機感から、「産む場所の選択肢を、未来に残したい」と信頼する仲間たちと話し合いを重ね、運営を決めた。

 助産師主導のお産と医師主導のお産の大きな違いは「継続性のあるケア」だという。助産所では、妊婦1人につき1人の助産師が妊娠中から出産、産後まで一貫して担当する。

 妊婦健診、お産について学ぶ「お産塾」、健康的な身体づくりを促す「山登り」などを催しながら、妊婦との信頼関係を築いていく。

 産む場所は助産所でも自宅でもいい。いざお産が始まると助産師2人が介助し、産後は助産院で過ごすか帰宅するかを選べる。

 帰宅しても5日目まで担当助産師が自宅を訪問して体調をうかがい、その後も困りごとを気兼ねなく相談できる関係が続くという。

 確かに、医師は診察室の数分間と分娩時にしか顔を合わせない。その点、産前産後にわたり一貫して寄り添う担当助産師は、妊婦にとって心強い存在だ。

 「出産ケア政策会議」によるアンケートでは、出産直後に「また産みたい」と答えた人は、開業助産師のケアを受けた人が、病院でケアを受けた人の約2倍もいたという。

 

(6月3日掲載)

お産の安全性 「点」ではなく「線」で見て

 東近江市の共同助産所「お産子の家」の助産師さんたちに話を聞きながら、「継続性のあるケア」が女性に安心を与えることを聞いた。

 そこで、働き方改革の影響で進む病院の集約化や、医師の高齢化により診療所の閉鎖が続いている現状で女性たちのケアは十分にできるかと尋ねた。開業助産師歴28年の三宅昌子さんは市民病院、診療所、助産院、独立後は自宅出産のサポートなどもする豊富な経験を持つ。三宅さんは「産科医の勤務は一般の人が想像する以上に過酷。医師に余裕がなければ、職場の雰囲気に伝わる。そんな状態は妊婦にとっても幸せじゃない。その悪循環が起きている」と語る。三宅さんはその点で、医療資源の集約化は仕方がないと受け止め「だからこそ、産む場所の選択肢のひとつとして、助産所が必要だ」と話す。

 共同助産所で出産を望む妊婦は妊娠20、28、36週の計3回、提携する滋賀医科大の妊婦健診を受ける。医師が「低リスク」と判断した妊婦だけが助産院や自宅での出産に臨むことができる。それでも緊急事態が起きた時には滋賀医大が救急搬送の受け入れ先となる。私は緊急帝王切開の経験者だ。万が一の事態を考えると、医師不在の出産には不安がよぎる。「安全性に不安はないか」と聞いてみた。

 三宅さんは「妊婦が不安だと思うなら病院を選べばいい。選べることが大切なのよ」。「でも堀江さん、お産の安全性ってなんだろう」と逆に問われた。「女性は産んで終わりじゃない。出産が終わればすぐに子育てが始まる。よいお産の体験が産後うつを防ぐという研究結果はいくつもある。周産期の死亡率1位は『自殺』。自殺を防ぐために女性たちが求めていることを社会はちゃんと聞いたことがあるか」。

 雷に打たれたようだった。私はお産の安全性を『点』で見ていた。分娩時の母子の低い死亡率は素晴らしいが、その数字でその後の自殺リスクは計れない。以前、私はお産に安全以外を求めることに恐縮したが、勉強不足だった。「よいお産の体験」や「産前産後のケア」は、女性のわがままを満たすために存在するサービスではない。産後うつによる自殺や育児不安による幼児虐待を防ぐために、社会的に必要な施策だ。

堀江昌史

(6月9日掲載)

掲載日: 2021年06月09日