長浜の66歳女性が体験談、「誰でも被害者に」
「特殊詐欺の記事を見て、なんでそんな話に騙されるんやろと思っていた。でも、自分が実際に電話を受けて分かった。本当に人の心をつかむ話し方だった」
長浜市内の66歳女性が5日、日本郵便のカスタマーセンターや大阪府警を名乗る男らから約1時間半にわたって電話を受けた。金銭を要求される前に詐欺と気づき、被害には至らなかったが、相手は女性の名前や生年月日、住所を把握。「犯罪に巻き込まれている」と不安をあおりながら信用させようとしてきたという。
電話があったのは同日午後1時半すぎ。「+1」で始まる番号から着信があり、女性の自動音声で「日本郵便のカスタマーセンターです」「荷物を送った方は0を押してください」と案内された。
女性は8月30日、新千歳空港から自宅へ荷物を2個送ったばかりだった。荷物は9月1日に届いていたが、「日本郵便」「荷物」という言葉が直前の自分の行動と重なった。
「ちょうど荷物を送ったところだったので、日本郵便からの電話だと思った」。案内に従い「0」を押した。
電話は若い男に替わった。女性が「送った荷物はもう届いている」と答えると、男は女性の名前、生年月日、住所を示し、「あなたが出した荷物が止まっている」と告げた。
女性が身に覚えがないと否定すると、「あなたが出していないことを証明できますか」と返された。さらに、ベトナム宛ての荷物から他人名義のキャッシュカード8枚や通帳2冊などが見つかったと説明されたという。
「自分の名前を使われ、犯罪に巻き込まれたと思った。カードや通帳の持ち主も困っているんじゃないか、私のせいで誰かに迷惑がかかっているんじゃないかと心配した」
男は「大阪府警本部へ行って被害届を出してください」と求めた。女性が仕事中ですぐには行けないと伝えると、「これは緊急案件です」「二次被害、三次被害が起きます」「今すぐ被害届を出すべきです」と畳みかけた。
さらに「この電話から大阪府警本部につなぐことができる」と持ちかけられた。犯罪に巻き込まれたと思っていた女性には、警察につないでもらえるという話はむしろありがたく感じられ、「それならお願いします」と答えた。
次に電話口に出た別の男は「大阪府警のカネコ」と名乗った。女性はそれまでの経緯を説明したが、次第に違和感を覚え「あなたが警察官だという証拠を見せてほしい」と求めた。
すると男は「疑うことは大事です」と答え、「一度電話を切るので、その間に自分で大阪府警の電話番号を調べてください」と促した。
女性はパソコンで大阪府警の番号を検索。その後、再びかかってきた電話の着信画面には「+28」に続き、自分で確認した大阪府警の電話番号とまったく同じ数字が並んでいた。
「疑うことまで肯定され、自分で調べた番号と同じ数字まで表示された。そこまでされたら、本物だと思ってしまう人はいると思う」
決め手は「捜査専用LINE」、「疑う気持ちまで利用された」
電話はさらに続いた。「大阪府警のカネコ」を名乗る男は「今、そこに誰かいますか」「誰か来る予定はありませんか」などと、女性の周囲の状況を繰り返し確認したという。
さらに、本人確認を理由に顔写真などの情報が必要だと説明された。女性は「何か変やな」と違和感を覚えながらも、この時点ではまだ詐欺と断定できなかった。
「LINEをしていますか」。そう尋ねた男は「捜査専用のLINEがあります」「そこで捜査状況を伝えます」などと説明し、LINEを使ったやり取りを求めてきたという。
「そこで、これは詐欺やなと思った。最後の決め手だった」
女性は男に「今から大阪府警本部へ行きます。カネコさんのところへ直接寄せてもらいます」と告げた。
ところが、男は慌てる様子を見せず「来てくれるならそれで結構です。何時に着きますか」と応じたという。女性が「今から準備して午後5時ごろ」と答えると、「では午後5時に大阪府警本部で待っています」と告げ、電話を切った。
男は最後まで警察官を装い続けた。
女性は電話を切った後、すぐに長浜署へ相談した。今回、金銭要求はなかった。女性は「たぶん、その前の段階で止められたんやと思う」と振り返る。
女性はこれまで、滋賀夕刊などで特殊詐欺の記事を見るたび、「なんでそんな話に騙されるんやろ」と思っていたという。
しかし、自分が実際に電話を受け、その考えは大きく変わった。
「相手は本当に上手だった。ああ言われたらこう返す、というのが全部できている感じ。こっちが疑ったら、その疑いまで利用して信用させてくる」
約1時間半のやり取りを振り返れば、不自然だった点はいくつも思い当たる。
だが、電話の最中は、一つ一つの疑問にもっともらしい説明が加えられ、次の話へと進んでいった。
「後から思えば、あそこもおかしい、ここもおかしいと思う。でも、その場では一つずつ納得させられていった」
特に印象に残っているのが、「疑うことは大事です」と言われたことだった。
女性は「詐欺師なら、疑われたら困ると思っていた。それなのに『疑っていい』と言われた。そこまで考えて話しているのかと思うと怖い」と話す。
女性が今回、最も強く感じたのは、相手が恐怖だけでなく、人の良心や責任感にも付け込んでくる怖さだった。
「自分が犯罪に巻き込まれたと思っただけじゃなくて、キャッシュカードや通帳の持ち主が困っているんじゃないかと思った。私のせいで誰かに迷惑がかかっているんじゃないか、と本気で心配した」
後から考えれば、「そんなことまで自分が心配しなくてもよかった」と思う。しかし、電話中は相手の説明を信じ「誰かが困っているなら何とかしないと」と考えていた。
「人に迷惑をかけたくない、困っている人を助けたいという気持ちにも付け込んでくるんやと思った」
特殊詐欺は、金もうけや欲につけ込むものだけではない。相手を思いやる気持ちや責任感さえも、犯罪に利用される可能性があることを身をもって感じたという。
「自分は大丈夫と思っていても、本当に分からない。私も普段から詐欺の記事を見ていたのに、実際に自分が標的になるとは思っていなかった」
女性は「身近な人がこういう体験をしたと知ってもらうことで、自分にも起こるかもしれないと考えるきっかけになれば」と話している。