どうなる?お産 ⑳-㉑

⑳地域医療[1] 急速化する病院の再編・統合

 市立長浜病院が今年4月に分娩を休止した。理由は「滋賀医大が、派遣医師を引き揚げたため」。昨年着工した産婦人科病棟拡張工事は中断し、NICU(新生児集中治療室)の増設もなくなった。

 滋賀医科大に行くと、村上節・医学部付属病院教授が「ずいぶん前から(引き揚げるという)話はあり、2年前に方針を伝えていた」と教えてくれた。

 長浜市には、4病院(長浜赤十字、市立長浜、市立湖北、セフィロト)ある。中でも、日赤と市立長浜は「高度急性期」「急性期」に対応する病院で、診療科も似通っている。

 産婦人科も両方にある。日赤には京大医局が、市立長浜には滋賀医大医局が医師を派遣していた。

 村上教授が現職に就いたのは2008年。当時から、県内の産婦人科医不足は深刻だったという。そこで11年、村上教授は「長浜一つ構想」を両病院長に提案した。

 日赤は「地域周産期母子医療センター」に指定されている。そこで産科は日赤に任せ、市立長浜は「地域のがん拠点病院」として婦人科だけを置く。京大、滋賀医大の医局から各病院に派遣されている研修医はその両方を回る、という内容だった。しかし、当時は話がまとまらなかった。

 雲行きが変わったのは15年。岐阜大が、市立長浜に派遣していた小児科医を引き揚げた。「岐阜県内の医療体制の充実」が理由だった。

 新生児の担当は、本来小児科医だ。小児科医がいなくなれば、産婦人科医は新生児に一晩中つかねばならない場合も生じる。ただでさえ多忙な医師には過酷な状況だった。村上教授は「産婦人科医が壊れてしまう。小児科のないところで、産婦人科を続けるのは厳しい」と判断した。

 両病院の産婦人科をひとつにする道を探るため、滋賀医大は日赤にも産婦人科医を2人派遣した。2人は、市立病院との交流を図る特命を託されていた。

 しかし、経営母体の違いや医局の壁もあり、実現しないまま派遣は2年で終了した。

 そうした中で20年、湖北地域は、国が病院再編を重点的に支援する区域に選ばれた。病院の再編統合は待ったなしとなった。24年には医師の働き方改革も始まる。

 こうした国策も後押しして、滋賀医大は、湖北地域の周産期医療を日赤に任せることに決めた。村上教授は「集約化のため、医師の引き上げは避けられなかった」という。

(8月31日掲載)

 

㉑地域医療[2] 妊産婦の負担増?公の支援考えて

 2024年、「医師の働き方改革」が始まる。法定労働時間に上限を設け、医師の労働環境を守る国策だ。地域医療はどう変わるのか。

 「現体制を維持できるのは県内で4病院ほどになる恐れがある」

 滋賀医科大医学部付属病院の村上節教授(産婦人科)はいう。

 滋賀医大医局に所属する産婦人科医は約40人。大学で勤務するほか、高島、甲賀、東近江、済生会滋賀県病院、近江八幡市立総合医療センターに派遣されている。これ以外の県内の病院は、京大や京都府立医大の医局に頼っている。

 村上教授によると、働き方改革後も現体制の維持が優先されるのは、滋賀医大のほか、大津赤十字、近江八幡市立総合医療センター、長浜赤十字病院。「それ以外の病院がどうなるか、正直わからない」。さらにこの4病院さえ、「絶対」はないという。

 医師不足は県内だけの話ではない。他府県の大学医局から派遣された医師が、いつ引き揚げられるかもわからないのだ。

 病院だけではない。産科の開業医(診療所)にも深刻な影響がありうると、村上教授はいう。

 「県内でこれまで産科崩壊が起きていないのは、分娩の6割を開業医が担ってきたからだ」

 開業医は半数以上が60歳代以上。滋賀医大は夜勤や休日に医師を派遣し支援してきた。しかし改革後は、院内勤務で法定労働時間の上限に達し、開業医の支援に回れない可能性がある。村上教授は「産科崩壊が県内で起こるとすれば、改革が始まった後、2025年から30年の間かもしれない」と心配する。

 妊産婦の経済的な負担が増える可能性もある。

 働き方改革に伴い、病院はより多くの医師を雇わなければならない。だが、労働時間が制限され、医師1人が担当する妊産婦の数は減る。病院経営者には、人件費ばかり増えて収益が上がらない不安がある。

 報酬を下げれば、医師の離職は避けられない。病院は、雇い控えして分娩を止めるか、分娩料金を値上げするか、選択しなければならない。

 厚労省によると、19年度の出産費用の全国平均は52万4000円。妊産婦が受給できる「出産育児一時金」は42万円で、差し引くと約10万円の自己負担が発生している。買いそろえなければならないベビー用品も多い。これ以上の経済的負担は、産み控えの原因にもなるはずだ。

 村上教授は「公費助成を求めるのがよいと考えている。少子化の時代に産む人を応援するのは、行政の仕事だ」と話した。

(9月10日掲載)

堀江昌史

掲載日: 2021年09月10日