どうなる?お産 ⑭-⑮

NZお産体験「LMCは頼もしい存在」

 リスクや出産場所に関係なく、産前・出産・産後を通して同じ専門家からのケアを受けられるニュージーランド(NZ)のLMC制度。昨年、その制度を利用して出産した知人に体験談を聞いた。

 長浜市出身の愛さん(35)は、2017年4月にNZに移住。19年3月ごろに、かかりつけの家庭医で検査を受けて妊娠が確定した。その際、医師から「助産師を探してね」と言われ、自然に助産師を選ぶことになったという。

 愛さんは助産師を探すために「Find Your Midwife」というサイトを利用した。このサイトでは、自分の暮らす地域で活動する「midwife」(助産師)の経歴や言語、空いているスケジュール、選べる出産場所などを確認することができる。日本と同じように口コミや知人の紹介で選ぶ人が多いという。

 しかし、愛さんは出産予定日が年末に近かったため休暇を取る助産師が多く、担当助産師を見つけるのに大変苦労した。10人以上に連絡を取り、スケジュールの空いていた中国人の助産師に決めた。妊娠発覚から5、6週間が経ち、決まるまではとても心配したという。愛さんは「クリスマスやイースターホリデー付近は助産師を見つけるのが大変。選んだ後に相性が合わない場合担当を変更することはできるが、出産時期に近づくほど助産師を見つけるのは難しくなると思う」と話す。

 妊婦健診は妊娠中期までは月1回、36週以降は週1回、バースケア(助産師主導の出産施設)の健診スペースで受けた。内容は尿検査や体重、腹囲、胎児の心音のチェックなどで約30分。健診の度に気になることを話し、アドバイスを受けることができて安心した。また、愛さんはLMCに「自然なお産がしたい」とバースプランを事前に伝え、助産師からも「へその緒を夫に切ってもらうか」などいくつかのチェックリストを渡されて希望を確認しあったという。

 出産場所は、高齢初産が気になり病院を選んだ。陣痛が始まり入院するとLMCが駆けつけ、病院の産科医と勤務助産師も立ち合ってお産が始まった。陣痛の間は自由に動くことができ、産む体制も選べる。陣痛から26時間が経過し、病院の助産師が「このままでは帝王切開」と告げた際に、LMCが「あなたは帝王切開しなくても産めるはず!大丈夫!」と手を握って励まし続けてくれたという。

 結局、35時間かかって無事に経腟分娩が叶った。愛さんは「LMCの存在がなければ、病院側の帝王切開の進言を拒めなかった。LMCが間に入り、私の希望を尊重してくれたのは、それまで築いてきた信頼関係があったからこそだと感じた」。

 その後も1カ月間、LMCは愛さんの自宅を訪問し、親身に相談に乗ってくれた。愛さんにとってLMCは「医学的にも精神的にも支えてもらえる頼もしい存在。もし2人目が出来たらぜひ同じ助産師にお願いしたい」と語った。

愛さんと赤ちゃんの介助をしたLMC助産師=愛さん提供

(7月2日掲載)

 

⑮助産師主導のお産の 安全性のエビデンス

 産前出産産後を通して、同じ専門家から継続的なケアを受けられるLMC制度。その効果は、産後うつや育児不安の予防だけではないという。

 世界保健機関(WHO)は2018年2月、22年ぶりに正常出産ガイドラインを改定した。56項目のうち、分娩全体にわたって推奨される4項目のケアの一つとして「助産師主導の継続ケア」が挙げられている。日本語版翻訳に携わったドーリング景子さん(京都大大学院医学研究科助教、助産師)によれば、ガイドラインは世界の臨床研究を系統的にまとめる最新のコクランレビューが明らかにしたエビデンスなどに基づいて定められているという。

 そのうち、オーストラリア、カナダ、アイルランド、英国における1万7674人の女性を対象とした15件の研究をまとめたレビューによれば、助産師主導の継続ケアを受けた産婦は他のケアと比べて、流産が19%、出産前後の赤ちゃんの死亡が16%、早産が24%減少していたことが分かった。また、帝王切開の割合に有意な差は無く、むしろ会陰切開の割合、吸引分娩・鉗子分娩の割合が減り、自然な経腟分娩が増えることが示された。助産師主導のケアが、他のケアに劣るという結果は特になかった。また、他のケアに比べ費用効果が高いことを明らかにした研究もある。

 ドーリングさんは「すでに医療の発達している国においても、これだけの効果が出るということが分かった。助産師による継続ケアは母子の安全や命をこれまで以上に守ることができる」と説く。

 私はこのエビデンスを示されて、天地がひっくり返る思いだった。これまで正直、助産師主導のお産は「安全性が低く危ない」とどこかで思っていた。その根拠として良く見聞きしたひとつが「戦後、自宅分娩から施設分娩へと体制が変化したことで妊産婦、周産期死亡率が劇的に改善した」という定説だ。

 そこで、人口動態統計を記録に残る1899年からの妊産婦死亡率を表にしてみて、驚いた。死亡率は戦前のずっと前、明治時代から下がり続けていた。1868年に出産介助者を定めた「産婆取締規則」が交付され、全国各地に産婆学校が設けられたことが貢献しているという(2015=中山まきこ、同志社女子大)。また、死亡率の低下は施設化のみならず、社会におけるインフラの整備、栄養状態の向上、健康教育への取り組みなど環境因子の改善によるところが大きいという研究もある(2002=マースデン・ワーグナー、元WHO母子保健局長)。周産期死亡率の統計からも、病院出産と周産期死亡率の低下に相関関係は見られなかった(1995=松岡悦子、旭川医科大)。

 だが当然ながら、病院は絶対に必要だ。ハイリスクのケースに対処できるのは医師だけであり、すべての出産が助産師だけで可能なわけではない。リスクの見極めが的確にされ、病院と助産師の連携が取れる環境がしっかりと整うなら、助産師の継続ケアを受けた分娩も不安ではない、と私は思った。

堀江昌史

(7月8日掲載)

掲載日: 2021年07月08日