どうなる?お産 ⑨

「産み育てたい街」を守るのは私たち

 命を歓迎できない社会に、未来はない。

 「若年女性(20〜39歳)が少なく、若者の流出も止まらない自治体は、やがて消えてしまう」

 日本創成会議は、7年前の報告でそう指摘した。

 「若年女性が2040年までの30年間で半減」「40年に人口が1万人を切る」の2条件が重なると、新生児が数十人〜数百人止まりとなって高齢者の死亡を補えず、人口が急減。消滅する可能性が高いという。

 県内で消滅可能性が高い自治体は、竜王、甲良、多賀。いずれも産婦人科はない。「30年間で半減」に近い自治体も4つ(湖南、高島、日野、甲賀)ある。

 私の住む長浜市は、38.3%減。1985〜90年には転入が多かった出産適齢期(20、30歳代)の女性が、2005〜10年の調査で転出超過となっていた。限りある医療資源。人口減や医療従事者の働き方改革のため、集約化は仕方ないのかもしれない。

 ある行政職員は「医療の逼迫した状況を、女性たちはちゃんと説明すればわかってくれる」といった。

 確かに、わかってはくれるだろう。でも女性に優しくない社会から、女性はいなくなるのでは。

 女性が地元で「産み育てたい」と思える施策が必要だ。たとえば、通院が遠い妊産婦に交通手段を用意する、病院に個室を整える、周産期前後のケアを一貫して担う助産師を配備する、などが考えられる。

 無診療所地域が増えれば、「未受診妊婦」が増えかねない。彼女たちが緊急搬送される先は、ギリギリの人員で働く病院だ。

 長浜市は21年度、長浜赤十字病院に、産婦人科医師1人につき20万円相当の給付金を助成する。待遇改善で、大学医局に派遣医師を増員してもらう狙いだ。これも一例だが、まだまだできることはあるはずだ。

 長浜病院が「分娩中止」を発表した翌日、市への問い合わせ電話はゼロだったという。市の担当者は「2年前に分娩をやめた診療所で今も産めると思い、初診を受けに来る人もいる。若い女性にニュースが届いていない」と話していた。

 今回の問題は、産婦人科医が元々少なかったために問題が顕在化しただけで、実は、外科医も麻酔科医も小児科医も不足している。

 地域医療をどう守るのか。それを考えるのは、その町に暮らす人みんなだ。

堀江昌史

(5月26日掲載)

掲載日: 2021年05月26日