松井さん、浅井で円墳を新発見

ネット公開の地形図きっかけに、4〜5世紀の首長墓か

 浅井東診療所所長の松井善典さん(44)=野瀬町=が浅井地域の小室町、西村町、太田町にまたがる山の上部に円墳があるのを発見した。専門家によると4〜5世紀に造られた豪族の墓とみられ、歴史資料や郷土史にも掲載が確認できない新発見。松井さんは「新しい歴史の1ページを見つけられ、とてもうれしい」と話している。

 松井さんは古墳や城跡、社寺跡など史跡の探訪を趣味とし、日ごろから行き先を地図で予習・復習しているという。4月17日、インターネットで公開されている地形図を調べていたところ、標高385㍍の山頂に円形の起伏を発見。中央部分がくぼんでいたことから「円墳を盗掘した痕跡に間違いない」と感じた。

 これまで存在が知られていなかった円墳を見つけた喜びの半面、「すでに発見されている円墳と見間違えたのかもしれない」との不安もあり、地域の郷土史などをつぶさに確認。どこにも記載がないことからあらためて新発見を確信した。

 29日、地形図に詳しい父の善和さん(74)とともに現地調査を行ったところ、山頂が直径約40㍍にわたって丸く盛り上がっていた。盗掘跡とみられる直径3〜5㍍のくぼみも確認した。また、加工されたとみられる直径20㌢ほどの白い石も見つかった。古墳の表面を覆うとみられる。

 松井さんから連絡を受けた県立琵琶湖博物館名誉学芸員で元神戸学院大人文学部教授の用田政晴さん(69)=考古学=も5月3日に現地調査を実施。円形の盛り土▽墳頂の平坦面▽墳裾の犬走り状地形▽付設されたような隣接する小型古墳の存在—などから「自然地形ではありえない典型的な古墳時代前半期の古墳」と断定した。円墳は一般的に直径10㍍以下のものから50㍍を超えるものがあるといい、今回発見された規模は首長墓で「少なくとも今でいう市町村長クラス」と分析している。

 松井さんの発見について、用田さんは「地域の歴史に興味を持った方が、現地に行かずとも新しい地図データを使って遺跡を新しく発見し、現地でも立派な古墳と確認できた。それが地域の古墳時代の歴史を語る上で重要な遺跡だった」と評価している。

 なお、周辺では過去に大学や研究家が古墳の調査を行っているが、今回発見された円墳は未確認だった。松井さんは「地図から古墳を見つけられることに時代を感じる。今ではAIが地図データから古墳を探し出しており、今後も見つかるかも」と話している。

 長浜市文化観光課歴史まちづくり室は「非常に貴重で大きな発見。松井さんからさらに詳しい情報を聞き、今後の手続きについて県と協議をしていきたい」としている。

◇   ◇

 松井さんの古墳発見のきっかけとなったのはインターネット上で公開されている「全国Q地図」。国土地理院などの地形データを使い勝手が良いようにアレンジしたもので、誰でも自由に利用できる。

 今年3月に公開された新しい地図や写真データから現地に行かずとも古墳を見つけやすくなった。この地形図は樹木を透過して地面の起伏を表示することから、木々に覆われた山でも人工的な盛り土や土塁などを確認できる。

 湖北地域の地形図を拡大すると山の尾根筋にいくつもの円墳が連なるように築かれていることが分かる。中には大和朝廷の影響力が及んでいたことを裏付ける前方後円墳も確認でき、古代の湖北地域には河川流域にいくつもの豪族が存在していたことがうかがえる。

 松井さんは今回新たに発見した円墳以外にも、この地形図から古墳と見られる遺構を見つけている。全国Q地図を利用した新しい古墳の発見例は県外でもあり、今後も各地で新発見が続くとみられる。

掲載日: 2025年06月16日