昆虫食が食料危機を救う!?

長浜バイオ大学 コオロギ食用化を共同研究

 「地球規模の食料問題の解決と人類の宇宙進出に向けた昆虫が支える循環型食料システムの開発」—。長浜バイオ大学が壮大なテーマを掲げる内閣府主導のプロジェクトに参加し、将来の食料難を救う切り札として注目を集める「昆虫食」の具現化に向けて研究開発に取り組んでいる。

 世界の人口は現在の78億人から2050年には98億人へと増加し、食料生産が追い付かない状態になるとされ、国際連合食糧農業機関は2013年、その解決策として昆虫の活用を提案。これを受け、世界規模で昆虫食の研究が進んでいる。

 内閣府主導のプロジェクトには長浜バイオ大を含め10の大学と研究機関が参加。長浜バイオ大ではアニマルバイオサイエンス学科の小倉淳教授を先頭に、教員、学生が研究に取り組んでいる。

 食料危機の切り札がなぜ昆虫食なのか。小倉教授は「昆虫は温室効果ガスの排出量が極めて少ない利点がある。さらには牧場のように広大な飼育スペースを必要とせず、栄養価の面でも優秀。例えば、鶏のササミのタンパク質が重量当たり約25%だとすれば、コオロギは約80%。持続可能な次世代のタンパク質源として非常に有望」(大学広報誌めいこう46号)と説明している。つまり、昆虫食の研究は遠くない将来、人口増加でタンパク質の供給が追い付かなくなる「タンパク質クライシス」への備えというわけだ。

 長浜バイオ大では昆虫の食料化・飼料化に取り組み、「昆虫ゲノム育種」「昆虫由来水産飼料開発」「コオロギ由来食料開発」「社会実装」の4つの視点で研究を進める。先行する欧州ではヨーロッパイエコオロギの食用化が進んでいるが、比較的湿度が高い日本では生育に課題があることから、日本全国でコオロギを採取して飼育し、最新のゲノム解析技術を用いて、日本独自の低コストで生産性の高い品種を目指している。

「食材の優秀さ、知って」澤田さん  飼育環境など模索

 このうち、「昆虫ゲノム育種」と「社会実装」を担当する学生の一人が、メディカルバイオサイエンス学科3年生の澤田祐衣さん(21)。子どものころから昆虫が大好きで、特に蛾に魅力を感じ、自宅では蚕を飼育している。

 藻類の分泌する糖類が水中のマイクロプラスチックを絡めとって除去する研究を行っていたところ、昆虫好きを知っていた小倉教授から勧誘され、プロジェクトに参加。全国のコオロギの採取、飼育、観察を担当している。湿度や温度に注意しながら最も適した飼育環境を模索している。観察を重ねるうち体長5㍉程の小型のコオロギが、カビの生えた餌を食すなど劣悪な環境でも生存できることに気づいた。

 また、昆虫食を広める「社会実装」では、どのように情報発信すれば、昆虫食への理解を深められるのかを研究している。これまでの調査で、男性に比べ女性の方が昆虫食への関心が高く、「栄養価の高さや環境問題への意識の高さが背景にあるのかもしれない」と語る。コオロギを粉末状にした「コオロギパウダー」は高タンパクで、筋トレやダイエットに励む女性はあまり嫌悪感を抱かずにプロテインとして注目しているという。

 個人的にも昆虫食への探求心が強い。コオロギパウダーを使った料理を食したり、「タガメ酒」を自作したり、自宅で飼育する蚕をボイルして試食したりと、好奇心は尽きない。

 「昆虫のことを何も知らないままで嫌いになるのではなく、食材として優秀なことを知って欲しい」と澤田さん。今は昆虫食にエンターテイメント性を求める人が多いが、「スーパーに昆虫食が並ぶ将来になれば」と、昆虫食が食卓を飾る未来を夢見ている。

掲載日: 2022年02月10日