「五葉のまつり」発刊記念 文泉堂でトークショー
大津市在住の直木賞作家・今村翔吾さんが石田三成をテーマにした歴史小説「五葉のまつり」(新潮社、10月30日発売)の出版にあたり、18日、大宮町の文泉堂でトークショーを行い、自身が分析する三成像について語った。
「五葉のまつり」は刀狩りや太閤検地など豊臣秀吉の大事業を支えた五奉行を三成の視点で取り上げている。今村さんにとっては「八本目の槍」に次ぐ三成小説となっている。
トークショーでは、今村さんは三成を書くことについて「理屈なしに単純に好きだから」と語り、「今でこそ漫画、アニメ、ゲームで三成は人気を回復しているが、依然として三成の人気は高くはなく、いまだに江戸時代に書かれた軍記物のイメージが残っている」と語った。
一方で、最近の三成像について「義の武将」として「美化しすぎ」とした上で、三成の評価すべき点は朝鮮出兵で担当した「兵站」と説いた。「三成ら五奉行が一番力を発揮したのは朝鮮出兵」とし、20〜30万人の軍勢を集めて船で朝鮮半島に送り、食料や武器を途切れさせることなく補給し続けた手腕を取り上げ「電卓もパソコンもなしに、相当大変な作業を行った」と賞賛した。
また、現在のロシアによるウクライナ侵攻を例に挙げながら、「戦を始めるのは簡単だが、どうやって終わらせるのかが難しい」と語り、「三成は朝鮮出兵の初手から終わらせ方を考え、早く戦を終わらせようとした」と紹介。「三成はあと1冊書く」と宣言し、朝鮮出兵を終わらせた三成の外交手腕などをテーマとすることをにおわせた。
明治時代を舞台にした今村さんの時代小説「イクサガミ」は俳優・岡田准一さんの主演でドラマ化が決まっており、今村さんはいずれ三成をテーマにしたNHK大河ドラマを実現したいと語った。
書店が全国で1万店を切った現状を憂い、「他の娯楽に本が負けている」「本を読まない人に本の楽しさを伝えるのは難しい」と語った。その上で「皆さんにはそれぞれ本の面白さを伝えてもらいたい」と来場者に呼びかけていた。
質疑応答では来場者から「時代考証にどれだけ重きを置いているのか?」との質問があり、今村さんは「何年何月何日に誰がどこにいたかは押さえている。それ以外のところはフィクションで私のテーマを乗せている」と答えていた。
トークショー後にはサイン会も行われた。