農水省助成12億円受け、市内に研究施設設置
長浜バイオ大学発のスタートアップ企業「ノベルジェン」(田村町)が微細藻類の培養技術を活用してカキを短期間で肥育し、海外向けに販路拡大する実証事業に取り組んでいる。農林水産省が助成金12億4700万円(限度額=2028年3月まで)の交付を決めて事業を後押ししており、事業が順調に進めば長浜発の技術で育ったカキが海外の食卓に並ぶ日も近そうだ。
同社は同大学アニマルバイオサイエンス学科の小倉淳教授が社長を務める。小倉教授は微細藻類の持つ特性などについて長年研究を重ねている。微細藻類は光合成で大気中の二酸化炭素を吸収する▽水中の窒素、リン、カリウム、ミネラルを吸収し水を浄化する▽分泌する粘質物や糸状群体構造でマイクロプラスチックを吸着する—といった効果があり、小倉教授は赤潮の発生メカニズムに着想を得て微細藻類を人工的に急速に繁殖させる「ALGAL BLOOM CAPTURE(ABC)技術」を開発している。
今回、農水省の事業採択を受けた研究開発テーマは「日本産冷凍生食用カキの品質向上と輸出量増大を目的とした、カキの短期肥育システムと流通DXプラットフォームの開発と実証」で、ABC技術をカキの肥育に応用する。
国内のカキ養殖場では近海の清浄化などに伴ってカキの身が小ぶりになっていることが課題。このため同社がABC技術を用いてカキの餌料に特化した微細藻類を培養し、広島県産などの出荷前のカキに与えて短期間で肥育させる。
現在は長浜バイオインキュベーションセンター(田村町)内の研究水槽で実験しているが、これからの実証事業では長浜市内に施設を設置して微細藻類の培養、カキの肥育を行い、社会実装を研究する。
また、東南アジアやヨーロッパ、北米などの海外で日本産生カキの人気が高いことから生産から流通までをDX技術でコントロールする仕組みを作り上げ、海外の需要に対して供給が即座に応じられるようにし、輸出増加を目指す。
小倉教授は将来的には琵琶湖の水を利用した肥育にも取り組みたい考えで、実現すれば琵琶湖の水の浄化にも寄与することとなる。
なお、同社のABC技術は微細藻類の増殖に活用できるだけでなく、二酸化炭素の吸収・固定、水質浄化、マイクロプラスチック除去にも適用できるなど多くの可能性を秘めており、関西万博への出展も決まっている。