木之本町木之本にある江北(こほく)図書館が、修繕のためのクラウドファンディングを行ない、約2200万円の浄財を得たことは今月15日の本紙でも伝えられた。江北図書館は明治40年(1907)に開館した、全国でも珍しい私設図書館である。開館の前年に設立された財団法人が今も運営しており、寄附金と基本財産の運用益・駐車場料金が収入となっている。
建物は、昭和12年(1937)に建築された伊香郡農会のもの。農会(のうかい)は農協の前身と言っていいだろう。木造2階建てで、施工を請け負った伊藤光次郎が伝統的工法で建築している。ただ、2階正面に半円形の意匠を凝らした窓が4つ並ぶのは、明治以来の擬洋風(ぎようふう)の流れをくんでいる。さらに、正面の千鳥(ちどり)風の屋根も、どことなくキリスト教会を思わせる。
建築から90年近くが経ち破損は甚だしい。全体に正面側へ傾いているというから、基礎からのやり直しが必要な上、耐震工事も欠かせない。特に、トイレが老朽化して使えないこと、南西角の外壁に大きな穴が開くこと、背面にある木製の筋交(すじかい)が腐って効をなしていないことなどが、緊急対応を迫られている部分である。その問題に対する資金集めが、今回のクラウドファンディングだった。本格的な建物修繕のため、この図書館の奮闘は、まだまだ続く。
長浜市・米原市をエリアとするタウン誌『みーな』では、両市内に残る近代洋風建築を悉皆(しっかい)調査し、2号にわたって特集を組んだことがある。平成26年に発刊した『百年建築』前編・後編だ。そこには、38件の明治から昭和に至る洋風建築が紹介されている。この特集が組まれた後も、掲載された建物5棟が、人知れず取り壊された。江北図書館の本格的修繕には億の金が見込まれるように、近代建築の維持・活用には莫大な資金が必要になってくるからだ。要は修繕するより、新築した方が安いのである。
しかし、明治33年(1900)建築の「黒壁」のように、その再生が地域の活性化に大いに役立ち、修繕費以上の経済的効果を生み出す場合もある。江北図書館も、レトロな雰囲気がこの図書館の最大の特徴だと理事たちが判断し、いつ終わるともつかない「茨(いばら)の道」を選択した。数々の地域の歴史が詰まった建物、それを建築した当時の住民の熱意を知れば知るほど、その建物は保存すべきとの思いが強くなる。もはや、建物の保存はお金の問題ではないとも考えられる。歴史を消し去るのは簡単だが、建物に詰まった先人の夢と希望を知る術(すべ)がなくなるのは、あまりにも寂しい。

江北図書館の半円形の窓
淡海歴史文化研究所 所長 太田浩司
(滋賀夕刊 2023年3月29日掲載)




